パラスポーツスタートガイド

パラセーリング パラセーリング

アイドルグループ仮面女子
猪狩ともか初セーリング!
「バリアを感じない」ヨットの魅力

風を捉えて帆を操り、波を読み進路を決める――自然の力と一体となるセーリングの爽快感は、今も昔も世界の人々を魅了し続けています。「パラセーリング」は、より安全に設計されたヨットを使用し、誰もが楽しめる競技を目指して1980年代に始まり、近年は日本各地に普及、全国大会が開催されるまでになりました。東京では江東区の若洲ヨット訓練所にて、一般社団法人パラセーリング東京主催による「インクルーシブセーリング体験会」が行われています。2024年10月13日、暖かな光と穏やかな風の吹く最高のセーリング日和のなか、車いすユーザーのアイドル猪狩ともかさんが、この体験会に参加しました。

海のパラスポーツ初挑戦にドキドキ

今回、一般社団法人パラセーリング東京(以下PST)(※1)の体験会で初セーリングに挑戦するのは、アイドルグループ『仮面女子』で活動する猪狩ともかさんです。事故による脊髄損傷で車いすユーザーとなるも見事グループに復帰、彼女の力強いパフォーマンスに勇気をもらう人も多いことでしょう。パラスポーツ普及活動も積極的に行い、体験会にも参加している猪狩さんですが、マリンスポーツは経験がないそうです。

「セーリングは初めてです。川でカヌーの経験はありますが、海では健常の頃にバナナボートに乗ったくらい、車いすで生活するようになってから海は初めてで、ヨットが並ぶ光景に感激しました。中学まで12年間水泳を習っていたので、水上は結構好きですね。少しドキドキしていますが、天気も良いので楽しみたいと思います」と体験直前のひと言です。

(※1)パラセーリング東京(PST) 障害者セーリング環境の創設を目的に2019年設立。NPOマリンプレイス東京・江東区と共催で、セーリング経験の有無を問わず、障害者と健常者がともにセーリングを体験できる体験会「インクルーシブセーリング体験会」を開催。2022年からはPSTと日本セーリング連盟の共同主催による日本初の全日本パラセーリング選手権など大会も実施。


パラセーリング:1

パラセーリングの歴史と国際大会

スポーツとしてのセーリングの歴史は古く(※2)オリンピックでは1896年アテネ大会から正式種目として採用されましたが、パラリンピック競技となったのはその約100年後でした。1996年アトランタ大会で公開競技として初実施、正式種目としては2000年シドニー大会〜2016年リオ大会まで実施されました。

パラセーリングは、一般のセーリング競技と同様、決められたコースをいかに早くゴールするかを競い、種目は船艇種ごとに分かれ(※3)、障害の機能的クラス分けが国際基準として適用されています。

「現在はパラリンピック競技ではありませんが、世界選手権には日本セーリング連盟が主体となって選手を送り出しています。PSTには世界に挑戦している選手も多いですし、今後も増えることを期待しています」とPST副理事長の高間信行さんに歴史や概要を解説していただきました。

(※2)オリンピックでは1896年第1回アテネ大会から正式種目として採用されましたが天候不良により未実施、1900年第2回パリ大会より実施。
(※3) パラリンピックでは2.4mR (1人乗り)、スカッド18(2人乗り)、ソナー(3人乗り)というキールボートを使用。

パラセーリング:2

セーリング体験会、いざヨットへ乗船

体験会では、参加者と経験豊富なPSTメンバーがペアでヨット(ハンザ※4)に乗り込み、海上での帆走練習を3コマ(1コマ45分)、最後にミニレースに挑戦という盛り沢山なプログラムが用意されていました。

猪狩さんのペアは、車椅子ユーザーで2024年ワールドパラセーリングRSベンチャーコネクト世界選手権に初出場した、パラセーリング歴3年の山本真利子さん。参加者はライフジャケットを装着し桟橋から乗船します。福祉用具専門相談員の資格を持つPST理事メンバーの志田裕之さんが、桟橋に据えられたリフトを使い、ハーネスを装着した猪狩さんをヨットに移乗させてくれました。

(※4) ハンザ 障害者も含め誰でもが乗れるように考案された1~2人乗り小型ヨットの名称。

パラセーリング:3

「空中ブランコの感覚で、安定していたので怖くありませんでした。私は装着型サイボーグHAL(※5)というサイボーグでトレーニングをしているのですが、その際もハーネスをつけるので抵抗感はなかったです」(猪狩さん)。コックピットの左舷側(ポートサイド)に山本さん、右舷側(スターボードサイド)に猪狩さんが座ると早速出航! 「いい風が吹いているから楽しめると思いますよ」と多くのスタッフに見送られました。

(※5) 装着型サイボーグHAL 身体機能を改善・補助・拡張・再生することができる装着型サイボーグのこと。

素晴らしきヨット体験スタート!

意気揚々と出航すると、山本さん操船でのレクチャーが始まります。どの程度体位を保てるかなどお互いの障害を確認すると、すぐに視線は海上に、そして船の心地よさに移ります。「すごい!結構スピードが出るんですね」「水面がキラキラして綺麗!」(猪狩さん)。

船を少し走らせたら、レバーで舵(かじ)取りの練習です。風向・風速の見方や捉え方、風上から45度に帆を向けるように帆に付いているロープを操作すること、風上に真正面に向けると船が動かないといった基本を教わり、風を上手く捉えて方向転換すると、そのダイナミックな動きに「キャー楽しい!」という猪狩さんの声が上がります。気軽に質問をしてコツを掴んでいく猪狩さんに「そうそう、いい感じです。これなら午後にはひとりで行けますよ」と、山本さんは優しい口調で続けます。

心地よい風を感じ、他艇と挨拶、2人は色々な話をしながら、今度はロープ操作を実践します。午前2回目の体験にはレバー(舵)とロープ(帆)の両方を猪狩さん自身が操作し、レースコースのブイを回る練習も始めました。

パラセーリング:4

あっという間に午前の練習時間が終わり桟橋へと戻ります。山本さんからは「素質ありますね! 素直に反応して上達も早いし、親しく話してくれて楽しかったです」とのこと、猪狩さん、かなり筋が良いようです。


パラセーリング:5

レースに挑戦、ひとりで操縦に挑む!

最後はミニレースです。セーリングのレースは仮想のスタートラインを設けて、スタートの合図を受けたあとに通過することで始まります。そのためスタート時のポジションが勝敗の分かれ目、猪狩さんはブイの近くで旋回しスタート5分程前まで絶妙な位置をキープしていましたが、突然風が止みライン後方で失速、最後尾でのスタートとなりました。なかなか進めず苦戦するも着実に進んでゴール! なんと最初から最後まで自身で操作し、「1日の練習でここまで自分で操縦した人はほとんどいない」と、閉会式では特別賞を授与されました。最後まで和やかな雰囲気で、「今度は猪狩さんのライブにも行きます」とPSTメンバーの皆さんからの応援のメッセージもありました。

パラセーリング:6

「きらめく水面がすぐ側にあり、チャポチャポという水音が心地良くて、ヒーリング効果があるのか、すごい眠気に襲われて、すごく気持ちよくなりました。小さい子は100%寝てしまうそうです」(猪狩さん)

「自分の力で操れる」セーリングの魅力

体験後の猪狩さんに感想を聞くと、水上には段差がないことに改めて気づき、自由を感じたとのことでした。「水上ってバリアがないんだと思いました。すごく楽しかったです! レバーを操作するのは車と同じ感覚で、早めにコツが掴めました」。インストラクターの山本さんから指示を受けつつ、後半はレバーとロープ両方の操作をひとりでやり遂げた猪狩さん。自分の判断でできるようになったらすごく楽しいだろうとの意欲的な発言も見られました。

また、一般のセーリングでは座る位置を変えてバランスを取る必要がありますが、ハンザ艇は下半身不自由な方も乗れるような工夫のされた安定感があるヨットで、“自分の手だけで操れる!”という楽しさが魅力だとも感じたそう。

パラセーリング:7

「左右で違う動きをするので脳のトレーニングにもなりますね。小学生のお子さんも来ていて、すれ違うときにも『楽しいー!』と言っていましたが、彼女たちのように幼い頃からいろんな体験をして、いろんな景色を見ることは、成長していく上でとても良いことだと思います。障害があっても、どんどん外に連れ出してあげたらいいですね。いろいろなことに触れることで可能性や選択肢は増えていくと思うので、どんどんチャレンジしてほしいですし、私自身今後もいろいろ挑戦していきたいと思います」(猪狩さん)。

パラセーリング:8

人生が豊かになる、セーリングを身近に

「海にはなかなか来る機会がないので、今日は朝からテンションが上がりました。セーリング体験も、そこにいる方との交流も楽しかったです。意外にもワンコインで参加できるそうですから、皆さんもどんどん参加してほしい。きっと人生が豊かになると思います!」(猪狩さん)

PSTでは障害の有無にかかわらず、児童から高齢者まで楽しめる「インクルーシブセーリング」としての普及を目指し、研修、授業の一環としてなど様々な場面で体験の機会を提供しているとのことです。どんな障害があっても、こんなに楽しめる世界がある。年齢を重ねて体が不自由になっても、人生楽しめることがまだまだこんなにあるのだと、陽光差す思いのする1日でした。
「セーリングは帆に風を受けて、生じる揚力によって前進します。風、波、天候や潮など自然をみる力が重要で、決して自分の力頼みではありません。ヨットはハードルが高いイメージがあるかもしれませんが、実は誰もができるスポーツで、肢体不自由、聴覚障害、視覚障害、知的障害の方も一人で操縦しています。一人では自信がない人でもチームでなら力が発揮できると、異なる障害を補い合って試合にも出場しています。ぜひ気軽に体験にいらして下さい」(近藤さん)。 皆さんも、次は海へと出かけてみませんか?

体験会に関する詳細はパラセーリング東京(PST)のホームページでご確認ください。
https://sites.google.com/view/para-sailing-tokyo/

プロフィール

プロフィール:猪狩ともか

猪狩ともか(いがりともか)

女性アイドルグループ「仮面女子」のメンバー。
2018年4月、事故のため車いすユーザーとなる。
リハビリの結果、同年8月にステージへ復帰し、現在も車いすを利用しながら、秋葉原を中心に活動中。
趣味は、野球観戦とドラマ鑑賞。

S&S TOKYO 障スポ&サポート
東京パラくる
TOKYOパラスポーツ・ナビ
東京都パラスポーツトレーニングセンター
TOKYOパラスポーツチャンネル
東京都パラスポーツ次世代選手発掘プログラム
都立特別支援学校活用促進事業
東京都生活文化スポーツ局
スポーツTOKYOインフォメーション
チャレスポ!TOKYO