

スピードは怖くない。楽しいです
気持ちの面で大変だと
思ったことはありません
ずっとスキーを続けられたらと
思っています
アルペンスキーID(知的障害)のスーパー大回転、大回転、回転の3種目で活躍し、世界トップレベルの成績を収めている木附雄祐(きづき ゆうすけ)選手。持ち前の集中力と恵まれた体格を生かし、技術と速度の求められるスーパー大回転では、2018年から複数回、Virtus (国際知的障害者スポーツ連盟)世界選手権大会のメダリストに輝いています。
今回のインタビューでは、木附選手にこれまでの道のりや競技への思いを伺いながら、選手生活を支えながら彼に寄り添ってきた、母・好(このみ)さんにも当時の状況や背景を振り返っていただきました。
2025年3月27日公開

スキーを始めたきっかけ
「本格的に競技を始めたのは19歳から。
スキーは幼稚園のときから家族で始めました。
滑るのが楽しくて大好きでした」(木附選手)
親の私たちに競技経験はないのですが、友人家族と集まってはファミリースキーに行っていました。今思えば家族だけでスキーに連れて行くのは結構大変でしたが、みんなで助け合いながら、子供たち同士で滑ることもとても楽しく、雄祐もスキーが大好きになりました。とにかく「ひたすら滑っていたい」という子だったので、幼稚園から高校まではYMCAの合宿にもお世話になり、中学からはスペシャルオリンピックス※でもスキーをしていました。いろんな経験をさせてあげたいという思いがあり、家族の旅行やレクリエーションなど、いっぱい遊んできたと思います。
※スペシャルオリンピックス 知的障害のある人たちに様々なトレーニングとその成果の発表の場である競技会を提供している国際的スポーツ組織。日常的にスポーツを楽しみながら技術向上を目指すプログラムを開催。
本格的にアルペンスキー競技を始めたのは高校を卒業して社会人になってからです。公益財団法人日本障害者スキー連盟(以下、連盟)の体験会に参加した際、隣で強化選手が参加している大会(ID選手権大会)が行われていて、ある程度滑れたことで連盟の方に誘われたのがきっかけでした。本人も「やりたい」と言ったので、翌年から連盟の大会にも多数出場し、練習も頑張りました。それまでコーチについて習ったことがなく、手探りで色々な所を訪ねては「こういう子ですが見ていただけますか」と教えて頂く環境を作り、2年後ぐらいにようやく強化選手になることができました。それからぐんぐん上達し、1年ほどで他の強化選手たちと肩を並べるくらいになり、今に至っています。(母・好さん)

これまでのスポーツ経験
「スピードスケートはスペシャルオリンピックスで
小学5年生から中学3年生まで。
他にもいろんなスポーツをしました」(木附選手)
実はスポーツは苦手だったのですが、小さい時は水泳を習い、小学生になってからはスペシャルオリンピックスでボウリング、スピードスケート、中学からアルペンスキーにも登録しました。と言っても月1回くらいの練習、余暇の延長といった感じで「スポーツを楽しみながらいろんなコミュニティーができたら」という思いで参加していました。スケートはバランス感覚や体幹などスキーに共通するものがあり、今も夏のオフトレーニングではインラインスケートやアイススケートをしています。高校では野球部にも入りました。高校卒業までにキャッチボールができるようになれたらいいねという目標を持って、できるようになりました。多動で、小さい頃は目を離すとすぐにどこかに行ってしまうので大変でしたが、少しずつ目標を作り、できることを増やしていくという感じでした。(好さん)
スキーの魅力と得意な種目
「滑っているときが楽しい。スラロームが好きで、得意です。
スーパー大回転は面白くスピードが速いのが楽しいです」(木附選手)
スラロームは、ポールを倒していくのが面白さでもあり、技術力が求められる部分でもあります。写真を見ると、ゴーグルの中の目がいつも笑っているんです。本当に楽しいんでしょうね。(好さん)

競技スキーを続けていく中での苦労
「平日は仕事が終わるとジムで毎日1時間、週末は長野で毎日6時間練習をします。
大変で疲れが溜まってきますが、スキーが大好きなので頑張れます。
寒いのはちょっと苦手。でも友達とスキーをして、その後の温泉も楽しみです。
体の面で大変だということはありますが、気持ちの面で大変だと思ったことはないです。スピードは怖くない。楽しいです。
スキーを嫌いになったことは一度もないです。もうやめたいと思ったこともありません」(木附選手)
スキーは雄祐の一番大切なものなので、それは嫌いになってほしくない。競技が苦しくならないよう、楽しみながら競技ができるようにと思っています。ポールの練習では繰り返し同じ所を滑るので、余暇では「自由なスキー」、「スキー場の端から端まで自由に滑れる」という時間を大切にしています。(好さん)

競技活動への支援と環境
東京在住でスキー選手としての活動は週末ごとの移動が大変ですが、東京には意外と多くのスキー選手がいらっしゃいます。シーズン中は金曜に仕事が終わるとすぐに志賀高原、北志賀よませ、菅平などへ向かい、日曜までレーシングチームのコーチの元で練習をしています。普段は私が車で連れて行くのですが、連盟の強化合宿や遠征では選手の皆さんと一緒に移動するので連盟のコーチにお任せしています。
シーズンオフにはフィジカルトレーニングに力を入れています。「東京ゆかりパラアスリート」に認定され活動助成金が頂けたので、それで新たにパーソナルトレーニングを受けることができました。助成金を頂くにあたっては、足りない部分の補填ではなく、新しく何かを始めることに使いたいと思ったんです。
仕事は伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の特例子会社で精密機器の分解をしています。それが彼には向いていたようで、集中力を活かして仕事ができています。仕事があるからスキーができるということも理解しています。所属会社は競技生活に理解が深く、大会や遠征へ快く送り出して下さり、ホームページで実績報告をしていただいています。(好さん)

スキー競技を始めたい方へのメッセージ
「スキーでたくさんの経験や、人との出会いがあるので、始めてほしいです。
とても楽しいので頑張ってください。たくさん練習をすれば上手になると思います」(木附選手)
自閉症の子は、好きなことにはすごい集中力を発揮できます。(障害がある子の教育やサポートは)親として大変な部分はありますが、上手に型にはめてあげたらできることはたくさんあると思うんです。私も挫折も、悲しい思いも沢山したけれど、前向きな気持ちで障害についての本を読み、色々な情報を必死で探し、彼が生きて行くためにもどうしたらいいかと考え、すごく頑張ってきました。北区のクリニックに専門の先生がいると聞いて通い、療育を受け、小学3年生から自閉症児と健常児が共に学ぶ、支援教育を行う普通学校に転校し、彼に合った教育環境を求め情報を聞けばすぐに色々なところに行きました。自閉症教育に特化した学校で訓練を受け、親自身も教育され成長できました。「その場その場で出会った人を大切にしようね」と、人との出会いもとても大切にしています。(もし障害がなかったら)違う世界があっただろうとも思うけれど、今は、私自身も雄祐が生まれたことで色々な方に出会え、サポートを頂き、色々なお言葉も頂いて、とてもよかったなと感じています。(好さん)

スキーに取り組んで嬉しかったこと
「いろんな人と出会えたことです。
印象に残っているのは
2024年のVirtusポーランド大会でメダルが取れたこと、
スウェーデンなど外国の選手と
仲良くなれたことがとても嬉しかったです」(木附選手)
スキーを通じていろんな人と出会えたことは雄祐の宝物です。Virtusでは外国の選手と友達になれたと、とても嬉しそうに話していました。連盟の強化合宿では北海道の友達やコーチに会うことが楽しみですし、個人の練習では中学生から大学生まで健常の選手や社会人の方々と共に練習して、彼らも雄祐のことを認めて「一緒に頑張ろう」という環境があります。コーチも心構えから厳しく指導してくださり、スポーツのおかげで人として成長できました。パーソナルトレーナーの阿部 芳明(あべ よしあき)さんも「障害の有無はトレーニングに関係ない」とおっしゃって、雄祐の特性や弱点など研究してくださり、ご指導頂き本当に感謝しています。(好さん)

選手としての目標
「選手としての目標は、世界大会に出てメダルを取ること。
たくさん練習をしてメダルがもらえるように頑張るということです。
2025年のフランス大会でも頑張りたいと思います。
ずっとスキーを続けられたらいいなと思っています」(木附選手)
メダル獲得をみんなに喜んでもらえるのが何より嬉しいですね。2025年は3~4月にVirtusフランス大会があり、国内では1月北海道 富良野、2月北海道 朝里川でのID大会に出場し、4月長野県 野沢温泉での大会にも出場予定です。(好さん)

2025年1月、第3回全日本知的障害者スキー競技大会 富良野大会より