パラスポーツスタートガイド

人によって正解が違うから
100%のものをつくること
からがスタート
喜んでもらえることが自分の喜び

――自転車競技のパラリンピックメダリスト・藤田征樹選手を兄に持つ藤田悠介さんは、病気やケガによって四肢に障害のある人のために、義手や義足をなどの製作を手掛ける義肢装具士です。日常用の義肢のみならず、パラバドミントンの藤原大輔選手、パラ陸上の湯口英理菜選手ら数多くのアスリートのスポーツ用義足の製作も行っています。一人ひとり、障害も骨格も違うため、同じ物は一つとない義足をつくるのは苦労が大きくても、それ以上にやり甲斐が大きいと言います。そんな藤田さんに義肢装具士を目指したきっかけから、アスリートをサポートする中で感じたこと、パラスポーツを始めたい人、支えたい人へのアドバイスをうかがいました。

2024年3月29日公開

義肢装具士を目指した理由

僕は手先が器用で小さい頃からダンボールとハサミが遊び道具でした。得意なことを活かしたいという気持ちはあったと思います。また、母親が看護師だったこともあって、兄弟のうち一人は医療系に進んで欲しいと思っていたみたいで、僕が高校2年の時に将来の道として「理学療法士はどう?」と言われたことがあります。でも、全然ピンとこなくてやる気にはなれませんでした。

その年の夏、兄が交通事故に遭って両脚膝下を切断し、義足になりました。ただ、地元・北海道の稚内には義足をつくるところがなく、兄は登別の病院で義足の製作からリハビリもしたので、家に帰ってきたらいきなり義足をつけて歩いていたという印象でした。兄のことが頭にあったことと、元々手先が器用だったこともあって、進路に悩んでいた高校3年生の時に進路指導室でたまたま義肢装具士のパンフレットを目にして「これだ!」と思ったのが始まりです。

そして義肢装具士を目指して、神戸の専門学校に進学しました。1年生の時に大阪でパラ陸上の大会があって、自転車競技を始める前の兄が出場したので応援に行ったんです。その時に、鉄道弘済会の臼井(二美男)さんと出会い、それがきっかけで卒業後に鉄道弘済会で働くことになりました。

義肢装具士として大事にしていること

義肢装具士は基本的に大変なことしかありません(笑)。この仕事は、義足を必要としている人、一人ひとりに合わせていくことが大事なので、僕がいくら「これは100%完璧だ」と思っても、必ずしもそれがいいものとは限らないんです。これがいいという正解が人によって違うので、どれだけ合わせていけるかという部分で毎回苦労します。その人が何をやりたいのか、どこが痛いのか、喋り過ぎなくらい、コミュニケーションをとることを大事にしています。

もう一つ大事にしていることは、常に目の前の仕事に100%で取り組むことです。その人、その人に合うものを自分の100%で作って、それで合わなかったらまた改善していけば、もっといいものができます。だから、その時自分ができる100%のものを作るところからがスタートなんです。僕自身、まだ「今日の自分より明日の自分の方が上手になれる」と思っているので、自分のピークはまだ先だろうと思って、そういう気持ちで取り組んでいます。

アスリートとの二人三脚

ここ最近で一番嬉しかったのはパラバドミントンの藤原大輔選手が東京2020パラリンピックをはじめとする国際大会でメダルを獲ったこと。彼とは、彼が大学生の頃から10年くらいずっと一緒にやってきたので、大きな舞台でメダルを獲れた時は本当に嬉しかったですね。

もう一つはパラ陸上の湯口英理菜選手がファウルをしないで幅跳びを跳んだときに、「跳んだ!」と思って泣きそうになりました。彼女は前例がない日本で唯一の両脚大腿義足の選手で、どういう形で義足を作っていいのかすらわからない状態でスタートしました。ソケットの形をこうしよう、角度はこうした方がいい…という感じで、本人と話したり、コーチから要望をもらったりしながら、良かったもの、合わなかったものを精査して、製作や調整を繰り返し続けた約3年間でした。

彼女自身もコーチも我々サポートする側も、全員が初めての経験で、何が正しいのかを見つけていくのが難しかったです。そうした中で苦しかったけど、お互いに成長することができて良かったと思っています。

パラスポーツを始めたい人へ

義足は決して安いものではないので、スポーツを始めたいと思ったら、まずはスポーツ用の義足はどういうものなのか試してみるのがいいと思います。例えば、臼井さんが運営している「スタートラインTokyo」は義足で走ることをサポートするスポーツクラブなので、その場で体験することができるスポーツ用義足が色々あります。臼井さんがこれまでたくさんのスポーツ用義足を作ってきており、試せるものも多いので、ぜひ相談してみてください。

始める前は、自分にできるのかな?という不安はあると思いますが、まずはやってみないと!何も始まりません。スタートラインTokyoの活動を見学するだけでも、気持ちは変わってくると思います。実際に義足で楽しく走っている姿を見たら刺激になるでしょうし、同じ立場の人からのアドバイスは何より参考になるはずです。だから、スポーツをやってみたいという気持ちが少しでもあったら、「迷っていないでおいでよ」と言いたいですね。

支えるやり甲斐と、その魅力

義肢装具士をやりたいという人は沢山いますが、大変なことも多いため、なかなか続かないというのも現実です。だからサポートしてみたいという人に贈る言葉があるとしたら、どんな仕事も同じだと思いますけど「楽ではないよ」という言葉になってしまいます。

一人ひとり違う障害、違う悩みを抱えている人をサポートするわけですから、大変なのは当然です。ただ、僕はやっていてすごく楽しいです。義足の患者さんと1度出会うと、その関係はずっと続いていきます。成長期で身長が伸びたらすぐに調整し直すし、痩せてきても調整が必要になります。そうやって僕が仕事を続ける限りその関係は続いていきます。ゴールがないので大変ですけど、家族の方に感謝されたら嬉しいですし、患者さんが楽しそうに帰ってくれたら余計に嬉しい。そういう喜びを味わえるのも、この仕事の魅力なんだと思います。

上記以外でも、東京都内では以下施設で競技用義足を体験することができます(外部サイト)
▶︎ギソクの図書館

S&S TOKYO 障スポ&サポート
東京パラくる
TOKYOパラスポーツ・ナビ
東京都パラスポーツトレーニングセンター
TOKYOパラスポーツチャンネル
東京都パラスポーツ次世代選手発掘プログラム
都立特別支援学校活用促進事業
東京都生活文化スポーツ局
スポーツTOKYOインフォメーション
チャレスポ!TOKYO