パラスポーツスタートガイド

パラスポーツほっとインタビュー 湯口英理菜選手(パラ陸上)日本航空/埼玉陸上競技協会湯口英理菜選手

パラ陸上を始めて、人と比べたり、
諦めたりすることがなくなった
パラスポーツを始めたい方の
選択肢を広げたい

――湯口英理菜選手は先天性の障害により、3歳の時に両脚を切断。物心がついた時には義足での生活が普通になっていたと言います。現在は日本で唯一の両脚大腿義足陸上競技選手として、パラリンピック出場を目指し、日々記録更新を目指して競技に取り組んでいます。前例のない両脚大腿義足選手として、アスリートの道を目指した背景には何があったのか?そしてさらなる夢に向けての思いをうかがいました。

2024年3月27日公開

パラ陸上との出会い

幼稚園に通うために義足をつけたので、リハビリをした記憶がうっすらありますが、歩く練習をした記憶はほとんどありません。元々、体を動かすのが好きで、何かスポーツをやりたいと思っていました。ただ、両脚義足だと車いすのスポーツしかできる種目がなくて、あまり乗り気になれませんでした。そうしたなかで、中学生になる時、子供用から大人用の義足に作り替えることになり、そこで義肢装具士の臼井二三男さんがいらっしゃる鉄道弘済会で、義足をお願いすることになりました。

臼井さんと出会って、「月に1回パラ陸上をやっているから体験しにおいで」と声をかけていただいたことが、パラ陸上を始めたきっかけです。競技用の義足では最初は立つのも大変で、歩くことも一人でできなくて大変な部分もありました。走れるようになるまで、1年かかりましたが、やっぱり自分の持っている脚で何かスポーツができるのは楽しいと感じました。

湯口選手提供

湯口選手提供

前例のない挑戦での
自身の変化

日本には両脚大腿義足の選手がいなかったため、私も指導者も探り探りの状態でした。日常用の義足と競技用の義足では感覚がまったく違うので、そもそもじっと立っていることすらできませんでした。両足切断の選手は海外の男子選手とかでも、膝が固定の選手とかも多くいらっしゃるのですが、私は小学校に入学するタイミングから誘導膝を使っていました。一度、固定の膝で陸上競技をやってみたのですが、今まで膝が曲がっていた分、曲がらないとなると、走るのが難しかったり、前に進まなかったり、自分にとってマイナスな面が大きかったので、私は曲がる誘導膝を選択しました。同じ障害でも人それぞれ感覚が違うと思いますし、その感覚も先天性の病気か後天性の病気かでも変わってくると思うので、それは何回も試すしかありません。その都度、義足を調整してくれる、臼井さんや藤田悠介さん、義肢装具士の方が本当に支えてくれました。

競技面では片脚大腿切断のプロアスリートの方はいらっしゃるので、その方たちに感覚を教えてもらったり、見よう見まねで同じ動きをやったりという練習をしています。そして、オーストラリアにバネッサ・ローという、私と同じ両脚義足の選手がいます。彼女は私の理想であり憧れなので、競技の動画を見て、自分とどう違うのか考えながら練習をしています。

幼少期の私は、障害があるからという理由で、他人と比べたり、諦めたりすることが多かったんです。でも、陸上競技を始めてからは自分をさらけ出せるようになりました。大会に行けば皆さんそれぞれがハンデを持っているなかで、素晴らしい記録を出しています。やればできるんだということを、いろいろなアスリートの方に教えてもらいました。私自身、走れない、跳べないと思っていましたが、続けていくうちに形になってきているのを実感できています。だから諦めない気持ちが大切だなと思っています。

できないことをやろうとすると、転んだり、失敗したりすることは多々あります。そこでも恐怖心を持たずに、何回でもやってみようと思いますし、何事にもチャレンジしてみる気持ちは、以前の自分とは変わった部分であり、私の武器だと思います。

パラ陸上の魅力とは?

高校生から本格的に競技を始めて、最初は小さい大会から出てみることにしました。まだまだ記録は全然良くないですけど、自分のやってきた成果が目に見えてわかるのがすごく嬉しいです。また、皆さんと一緒の大会に出られる環境自体が嬉しくて、陸上競技をやること自体が楽しみでした。

選手はそれぞれが障害というハンデを持って生きてきたなかで、パラ陸上競技はそのハンデを武器にすることができます。義足の場合は、いかに自分がブレードをうまく使うかによっても記録が変わってきます。自分の残されている体をどう使うかによって成長もあると思うので、そこがやっていて面白い部分、魅力なのかなと思います。

湯口選手提供

湯口選手提供

目標はパラリンピック出場。
夢の実現への思い

パラリンピックに出場したいという目標は元々持っていたのですが、東京2020パラリンピックの時にいつも一緒に練習している先輩方が出場している姿を見て、「いつか出たい」という気持ちが、「絶対に出たい」という気持ちに変わりました。

T61クラスでパラリンピックに出るために走幅跳を始めました。走る時と同じで、私には跳ぶという感覚がわからないので、本当にイチからの挑戦でした。跳ぶにはどういう体の動かし方をするのか?という状態から始まって、何が正しくて何が間違っているのかもわからないなかで、基礎的なところからコツコツ積み上げていって、ようやく今の記録が出るようになりました。

今年は世界パラ選手権が神戸で開催されます。まずはそこに出場し、上位2位に入り、パリパラリンピックの内定を取るという目標があります。その目標を叶えるために、年度末まで自身の記録・世界ランキングを上げられるよう冬季練習に励んでいます。世界パラは自国開催ですから、より多くの方に見ていただける環境です。そこで自分が全力のパフォーマンスをすることによって、同じような障害で悩んでいる方にも、少しでも何かにチャレンジしてみたいという気持ちになってほしいです。そう思ってもらえるような姿を見せられたらと思っています。

パラスポーツを
始めてみたい方へ

私が陸上競技を始める時は周りからは「できるの?」という不安の声のほうが多かったんです。大学に入る時も「ついていけないでしょ」と言われていて、私自身、陸上競技に向いていないようなタイプでした。でも、やる前からできるかできないかを決めないで、誰でも挑戦できるのが陸上競技なのかもしれません。陸上競技は自分との戦いでもあるので、自分に負けない強さが大事なのかなと思います。

パラスポーツを始めてみたいと思っている方がいたら、家族も含めて、まずはやってみたいという気持ちを一番尊重してほしいです。私自身、幼少期にスポーツをやりたいと思って探しても、選択肢が少なかったんです。その選択肢を少しでも広げられたらいいなと思います。体験会に行くでも、大会を観に行くでも、何かパラスポーツに触れる機会がもっと増えたらいいですよね。パラスポーツに触れることで、子どもたちも何かしら心が動く瞬間があると思います。

湯口英理菜選手
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