自分でできることが増えれば
選べるスポーツの幅も広がる。
理解して必要なサポートをすることで、
家族のような絆が生まれる
———理学療法士であり、専門学校の教員でもある藤川明代さんは、車いすラグビー日本代表のトレーナーという顔も持ちます。まったく無縁の世界だった車いすラグビーに関わるきっかけや、理学療法士としてパラスポーツと接しての自身や周囲の変化、そしてパラスポーツを始めたい人、支えたい人へのアドバイスをうかがいました。
2022年11月17日公開
理学療法士を目指した理由
小学校から高校までバスケットボールをしていて、将来はプロ選手を目指していました。高校時代、ケガをして病院に行くと、どの病院でも「もうやめなさい」「休みなさい」と言われました。そうしたなか、一人の医師だけが「治療しながらやってみたら?」と言ってくれたのでリハビリをしながらスポーツをするという方法を教えていただきました。そのとき理学療法士に初めて出会いました。
競技をやめる、休むという考え方ではなく、競技を続けるという前提でリハビリをしてもらい、「ケガをしてもできるんだ」ということが、当時の自分の中でとても衝撃的でした。そうした経験をして自分も選手をサポートする側になりたいと思い、理学療法士を目指しました。
車いすラグビーとの出会い
理学療法士として働いていましたが、ご縁があって社会医学技術学院で教えることになりました。ある日その時の上司に「スポーツに関わりたい」と相談した時に、練習を見学に行くのをすすめられたのが車いすラグビーでした。
病院で診る頚髄損傷の方は、受傷してから生活へ復帰するまでなので、まだ自身の障害を受け入れることができず、活動意欲が低いことがあります。一方、車いすラグビーの選手たちはすでに自分の障害を受容し、かつ、とても激しいスポーツをしていることが驚きでした。
「障害って何?」と改めて考えさせられ、ぜひ車いすラグビーに関わりたいと思いました。
選手との接し方で
大事にしていること
選手の中には障害を負った事由が怪我の人も病気の人もいて、また障害の度合いも様々です。理学療法士なので、最初はどうしても障害があるが故に全てサポートしたくなってしまいました。しかし、今は選手のことも競技のことも理解し、「できることは自分でやってもらい、できないことをサポートする」というふうに、選手との距離感を大切にしています。
リオ2016パラリンピックはマネージャーとして関わり、その後日本代表のトレーナーになりました。選手の体のコンディションを整えることは当然として、それ以上のものを提供したいと考えています。選手の日常生活の手伝いもするため、トレーナーとして一緒にいる時間が長く、選手たちとは一緒にメダルを目指す仲間というか、家族のような絆が生まれていると感じています。
私の一番の強みは、キャラクターかもしれません(笑)。監督やコーチには言いづらいことも、私には軽く言えるみたいで、「ちょうどよく文句を言える存在」と言われています(笑)。いろいろな不満や私生活の相談など気軽に話してもらえることは、私としてはすごく嬉しいです。
活動への周囲の理解
代表活動と仕事の両立という意味では、周囲の方に本当に助けていただいています。遠征に行く時、学校の仕事は他の先生方や事務の方たちにいつも協力してもらっています。一番影響を受けるのは授業が変更になる学生たちなので、車いすラグビー日本代表のトレーナーとしての活動を丁寧に説明して、学生の理解を得てから遠征に行くようにしています。
東京2020パラリンピックの後は、学生や卒業生からも「見ました」という連絡がありました。それだけでなく、学生たちが「学校の先生が出ている」と伝えてくれたようで、親御さんたちからもたくさんの良い反応をいただきました。
また、私の父は東京2020パラリンピックを機に、車いすラグビーや私の仕事のことを理解してくれ、甥っ子や姪っ子も車いすラグビーを観戦し、家族全員が私と日本代表を応援してくれるようになりました。
パラスポーツを
始めたい人へ
障害によって自分に合うスポーツ、合わないスポーツがあると思いますが、J-STAR※のような選手発掘プロジェクトや、東京都のパラスポーツ次世代選手発掘プログラムに参加して、まずは自分にどんなスポーツが合うのか、実際に見て触れてもらうことが一番だと思います。
生活面に関しては、どんなスポーツをやるにしても、自立が必要です。障害によってできることは変わりますが、ご飯を食べて、お風呂に入って、トイレに行って、移動手段まであるというように、自分でできることが多ければ、選べるスポーツの幅も広がります。
※JAPAN RISING STAR PROJECT 主催:独立行政法人日本スポーツ振興センター
パラスポーツを
サポートしたい人へ
一番大切なのは、とにかく現場に行くことです。パラスポーツに関わりたいと思っている方は、東京都のサイト※や各競技団体のサイトを見て、どんどん知ってもらうことがポイントだと思います。一度現場に行ってみると、また見たいとか、この選手すごいなとか、興味も大きくなっていくので、やり甲斐にもつながっていきます。
私自身も選手のサポートは変わらずやっていきます。パリ大会、ロサンゼルス大会でも関わっていきたいと思っています。そのためには今まで以上に選手の信頼を得られるように頑張っていきます。
教員としても自分の経験を伝えていって、学生たちが「理学療法士っていい仕事だな」「パラスポーツに関わりたいな」と思ってくれるような、お手本になれたらいいなと思っています。