障害のある選手が技能を
獲得するうえで
どのようにサポートすれば
困難性が取り除けるかを考える。
本人が「楽しい」と思う
気持ちを大切に。
———2022年1月、「いいよ!今のペースでもう1回!」。夜の陸上トラックで選手に声をかけるのは、下稲葉 耕己さん。東京2020パラリンピック競技大会で日本知的障がい者陸上競技連盟の強化ディレクターに就任し、日本代表の育成に尽力した下稲葉さんに、指導者の視点からお話を伺いました。
2022年1月28日公開
指導のきっかけ
障害のある選手を指導することになったきっかけは、大学院修了後に配属された盲学校です。教員試験合格後、たまたま、配属されたのが盲学校だったんです。もちろん、通っていた大学にも障害のある方はいたし、大学院在学時に特別支援学校で講師をしていたので、それまでにも接した経験はありました。ただ、その時は相手も小学生で、肢体不自由などで体力があまりない子たちばかり。自分から「競技スポーツに取り組みたい」と伝えてくる選手に指導することは盲学校が初めてでした。
尊敬できる指導者との出会い
盲学校で僕を指導してくれた先生自身が、視覚障害者だったんです。「あの言い方は分かりづらいかもしれないね」と、具体的にレクチャーをしていただいたり、実体験に基づいた指導方法を教わったり。視覚障害者とひとくちにいっても、弱視の方もいれば、全盲の方もいる。中途視覚障害で入学してくる方には、僕より年上の方もたくさんいます。視覚障害と知的障害がある、重複障害の方もいる。そんな中、戸惑いや困惑を抱かずに、生徒に指導ができたのは、その先生のおかげでした。
障害のある方に
「教える」ということ
対象障害にもよりますが、やはり、障害は運動技能を獲得するうえで、どうしても阻害要因になります。だからこそ、僕たち指導者がどのようにサポートすれば、その障害からくる困難性を抑えて、技術力を高めてあげられるか。それに尽きますね。最初からいい動きを追わないことも大事です。機能的には質の低い動きでも、まずはできるように教える。すると少しずつ楽しいな、すごいなとわかってくる。わかってから技能をよくしていく。達成感を感じることが重要なポイントになると思います。「選手に何を感じさせたいのか」というところから逆算して指導しています。
指導者としての喜び
もちろん教えている選手が自己記録を更新して喜んでいる姿を見ていると、自分のことのように嬉しくなります。でも最近は、コロナ禍もあって、みんなで集まってスポーツをできること自体が嬉しくて、昔から感じていることではありますが、パラスポーツをきっかけにコミュニティーが生まれることの素晴らしさを再認識しています。競技スポーツとしての側面も大切にしながら、仲間に出会うきっかけとして、スポーツがあってもいいんじゃないかと。パラスポーツには、そういった存在意義、存在価値もあるなと、最近は考えています。
パラスポーツに
これから関わる方へ
もし、障害のある方にパラスポーツを勧めたいと考えているなら、まずはアンテナを張ることから始めてみてください。本人が何に興味があるのか、どんなことが好きなのか。スポーツって、そこから派生していくものなので、本人の興味・関心を第一に考えてあげてほしい。また、今後は健常者のスポーツクラブや部活に、障害のある方が参加するケースも増えていくんじゃないかと思っています。障害のある方への指導支援は、健常者へのより分かりやすい指導につながります。ぜひ、構えずに受け入れてあげてください。